宮沢賢治(みやざわ けんじ)。岩手県出身の作家。37歳の若さで亡くなっている。そのため生前に出版されたのは童話集「注文の多い料理店」と詩集「春と修羅」だけでほとんど世に知られていなかった。しかし彼の死後、書き残した多数の童話と詩などが編集され出版されるとともに、作品世界の豊かさと深さが広く認められるようになった。
「僕もうあんな大きな暗の中だってこわくない。きっとみんなのほんとうのさいわいをさがしに行く。どこまでもどこまでも僕たち一緒に進んで行こう。」
「ああきっと行くよ。ああ、あすこの野原はなんてきれいだろう。みんな集まってるねえ。あすこがほんとうの天上なんだ。あっあすこにいるのぼくのお母さんだよ。」
カムパネラはにわかに窓の遠くに見えるきれいな野原を指さして叫びました。
ジョバンニもそっちを見ましたけれどもそこはぼんやり白くけむっているばかりどうしてもカムパネラがいったように思われませんでした。
この作品はワンフレーズの言葉よりは、不思議な世界の話しの中のひとつひとつの文章がこころに響いてきます。ですのでどの言葉を選ぶべきか迷いました。取り上げた一節は、お話しの終盤に交わされたジョバンニとカムパネラの一番最後の会話です。若いときに読んだときに比べて、いま読み直すと少年と親友との幻の列車の旅が大変美しく、そしてせつなく脳裏に浮かんできます。 |